東京地方裁判所 平成9年(特わ)4386号 判決 1997年7月18日
一
被告人
本店の所在地
東京都大田区南久が原一丁目八番一号
日本建設興業株式会社
右代表者代表取締役
岩田幸子
本籍
東京都大田区田園調布一丁目六番地の五
住居
東京都大田区南久が原一丁目八番二二号
会社役員
岩田幸子
大正一二年九月一三日生
二
出席検察官 藤原光秀
三
弁護人(私選) 梅澤秀次
主文
被告人日本建設興業株式会社を罰金二八〇〇万円に処する。
被告人岩田幸子を懲役一年六か月に処する。
被告人岩田幸子に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
【犯罪事実】
被告人日本建設興業株式会社(以下被告会社という)は、平成八年三月三一日以前は東京都大田区南久が原一丁目八番二二号、同年四月一日以降は同区南久が原一丁目八番一号にそれぞれ本店を置いて、土木工事の請負等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人岩田幸子(以下被告人という)は、被告会社の代表取締役として、被告会社の業務全般を統括しているものである。
被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと考え、架空の外注費を計上するなどして、所得を秘匿した上、次のとおり法人税を免れた。
第一 被告人は、平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度において、被告会社の所得金額が二億一〇六四万九六九九円であったにもかかわらず、同年五月三一日、東京都大田区雪谷大塚四番一二号雪谷税務署において、雪谷税務署長に対して、その所得金額が九八四一万九〇九六円(別紙1の修正損益計算書及び修正製造原価報告書参照)であり、これに対する法人税額が三五七一万四七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第七六七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告会社の前記事業年度における正規の法人税額七七八〇万一〇〇〇円と申告税額との差額四二〇八万六三〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。
第二 被告人は、平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度において、被告会社の所得金額が二億一一二八万九六二四円であったにもかかわらず、同年五月三一日、前記雪谷税務署において、雪谷税務署長に対して、その所得金額が一億〇二八七万三八八七円(別紙2の修正損益計算書及び修正製造原価報告書参照)であり、これに対する法人税額が三七四一万三七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第七六七号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告会社の前記事業年度における正規の法人税額七八〇六万九七〇〇円と申告税額との差額四〇六五万六〇〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。
第三 被告人は、平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度において、被告会社の所得金額が一億五六六九万〇二二〇円であったにもかかわらず、同年五月三一日、前記雪谷税務署において、雪谷税務署長に対して、その所得金額が八二二六万三一六〇円(別紙3の修正損益計算書及び修正製造原価報告書参照)であり、これに対する法人税額が二九七八万五六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第七六七号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告会社の前記事業年度における正規の法人税額五七六九万五七〇〇円と申告税額との差額二七九一万〇一〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。
【証拠】(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
全事実について
一 被告人の公判供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(五通、乙二ないし六)
一 岩田直行の検察官に対する供述調書
一 石井香米蔵の大蔵事務官に対する質問てん末書(二通)
冒頭の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書(乙一)
一 登記簿謄本
第一、第二、第三の各事実について
一 福利厚生費調査書、外注費調査書、消耗費調査書、旅費・交通費調査書、会議費調査書、接待交際費調査書、雑費調査書、債券償還益調査書、交際費等の損金不算入額調査書、事業税認定損調査書
一 捜査報告書(甲二〇)
第一、第三の各事実について
一 雑収入調査書
第一の事実について
一 久保勝の検察官に対する供述調書
一 燃料費調査書
一 法人税確定申告書(平成九年押第七六七号の1)
第二の事実について
一 事故費調査書、租税公課調査書
一 法人税確定申告書(平成九年押第七六七号の2)
第三の事実について
一 法人税確定申告書(平成九年押第七六七号の3)
【法令の適用】(以下刑法は、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前のものを適用する。)
一 罰条
被告会社
各所為 いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項
被告人
各所為 いずれも法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
被告人
各罪 いずれも懲役刑選択
三 併合罪の処理
被告会社 刑法四五条前段、四八条二項、
被告人 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情が重い第一の罪の刑に法定の加重)
四 刑の執行猶予
被告人 刑法二五条一項
【量刑の事情】
本件は、土木工事の請負等を目的とする被告会社の代表取締役であった被告人が、被告会社の所得について、架空の外注費等を経費として計上するなどして、三事業年度にわたり、合計一億一〇六五万二四〇〇円の法人税を免れたという事案であり、脱税額は低額であるということはできず、正規の税額に対して脱税額が占める割合も、約五〇パーセントであり、軽視できるものではない。被告人は、被告会社の業務に関して、自ら経理事務を行い、架空の取引先を設定し、下請工事を外注したような経理操作をして、簿外資金を作り、その資金で割引債を購入して、利殖をはかり、これらを所得金額から除外していた上、課税上損金に算入できる額に限度がある接待交際費について、その一部を別の名目で支出したかのように装って、所得金額を過少に申告していたのであり、このような所得の秘匿方法も決して見過ごすことができるものではない。のみならず、昭和四七年、法人税のほ脱行為により、被告会社は罰金刑、被告人は執行猶予付きの懲役刑に処せられている。被告人、被告会社の刑事責任は重いというほかない。
他方において、被告会社は、これまで免れていた法人税について、その本税、重加算税、延滞税を全て納付しており、そのため、被告人は、簿外資金で購入していた割引債を全て解約して、それをこれらの本税、附帯税の支払に充てるなど、本件が発覚したことによって、相応の経済的な制裁を受けている。また、被告人は、被告会社の業務に関して、土木工事の元請会社に対する供応、接待のため多額の費用を要したことなどから、本件犯行を行った旨供述しているところ、このような供応、接待のための費用について、適法に支出するための方法を検討しているなど、本件が摘発されたことによって、それなりに適切な対応をする姿勢を示し、もとより本件犯行について反省の態度を示している。これらの事情に加え、被告人は、かつて病気で倒れたことがあり、次第に高齢になってきた身でありながら、心臓に持病を持ちながら独身で生活している次男の面倒を見なければならない立場にあるなど、被告人にとって有利な事情もある。
そこで、これらの事情を総合して考慮し、被告会社を主文の罰金刑に処し、被告人を主文の懲役刑に処した上、被告人に対する懲役刑の執行を猶予することとした。
(裁判官 山口雅髙)
別紙1 修正損益計算書
<省略>
修正製造原価報告書
<省略>
別紙2 修正損益計算書
<省略>
修正製造原価報告書
<省略>
別紙3 修正損益計算書
<省略>
修正製造原価報告書
<省略>
別紙4
ほ脱税額計算書
日本建設興業株式会社
(1) 自 平成4年4月1日
至 平成5年3月31日
<省略>
(2) 自 平成5年4月1日
至 平成6年3月31日
<省略>
(3) 自 平成6年4月1日
至 平成7年3月31日
<省略>